100年に一度の大改造『渋谷再開発』②
100年に一度の大改造『渋谷再開発』
~東横線の地下化が再開発の出発点~
渋谷駅中心地区の再開発は、2027年度の完成に向けて後半戦に入っていますが、 今回は、大規模開発計画を可能にした経緯や新たな姿について報告します。
渋谷駅の成り立ちと課題からみえる再開発の背景
渋谷は、関東大震災後は都心と郊外を結ぶターミナル駅として発展し、戦前の段階で、鉄道4路線が乗り入れ、 駅ビル型百貨店が開業し、現在の渋谷駅の骨格が形づくられましたが、東京大空襲によって壊滅的な被害を受けました。
戦後復興期は戦前に形づくられた骨格をベースに、1960年代、 特に1964年開催の東京オリンピックを契機として大改修・増築されました。
しかし、ほとんどの建物は1981年の耐震基準改正前に建築されていましたので、 駅施設と駅ビルの老朽化が問題となり、安全性や防災面での対応を迫られていました。
また、2000年時点では、地形の制約から4社7線が、地下3階から地上3階に配置され、 「迷路」と言われる複雑な構造になっていました。
乗り換え通路が分かりにくく、多層階での乗り換え動線に対するバリアフリーも不十分なため、 利便性が課題となっていました。
東横線と副都心線の相互直通運転決定
渋谷再開発を大きく進展させたのは、長年棚上げされていた 「営団地下鉄13号線(現:副都心線)」の渋谷延伸の方針が固まった 1998年頃に遡ります。 |
渋谷駅周辺4街区が都市再生特別区に指定
その後、渋谷駅周辺は2005年に「都市再生緊急整備地域」、 2012年に「特定都市再生緊急整備地域」に指定されます。
2008年に副都心線が渋谷に乗り入れましたが、 これと前後して、銀座線の移設を含んだ「渋谷ヒカリエ」の 都市再生特別地区が決定し、2012年に開業。
2009年には、鉄道施設と道路、広場などの公共施設が集中する駅周辺の基盤整備に関わる 「4街区」が、「都市再生特別地区」に指定され、 容積率の緩和を背景にオフィス機能を中心とした大規模な再開発が進み、 駅の景観を一変させる再開発事業が本格化しました。
現在は、4街区開発のうち、2街区が竣工済。2街区が進行中です。
「渋谷南街区」―2018年「渋谷ストリーム」開業
「道玄坂街区」―2019年「渋谷フクラス」開業
「渋谷駅街区」―2019年「スクランブルスクエア東棟」開業
(地下7階・地上46階建て、高さ約230m)
「スクランブルスクエア中央棟・西棟」が、2027年度開業予定。
「渋谷桜丘口街区」は、2023年度開業に向け、建設工事が進行中。
安全でわかりやすく便利な駅に向けて
JR渋谷駅は、現在建設中の 「スクランブルスクエア中央棟」に「橋上駅舎化」されて 生まれ変わりますが、JRを始め渋谷駅に乗り入れている鉄道各社は、 既に駅施設の改良工事を実施し、現在も進行中です。 <現在進行中の改良工事>
横移動が分かりやすく
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「街区」を結ぶ動線(歩行者動線)の改良
先ずは、渋谷駅を中心としたスムーズな横移動が求められますが、 「駅から駅へ」、「駅からまちへ」、「まちからまちへ」の視点で、動線の見直しが図られます。
一日あたり乗降客数約75万人のJR利用者の「横動線」は、 前述の3階と1階に設置される北口・南口の改札口を出てからは、 「4つの街区」と「渋谷ヒカリエ」の 地上2階~4階レベルでのデッキによって、平面的に繋がります。
「縦動線」は、各施設の地下と地上を結び付け、歩行者のスムーズな移動を実現する筒状の吹き抜け空間を 「アーバンコア」と名付けて、稼働させています。
エレベーターだけではなく、エスカレーターなどを通して立体的に繋げることにより、 まちの回遊性が生まれているのではないでしょうか?
わかったこと。見えてきたこと。
渋谷駅東西を繋ぐ未来の歩行者動線
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さいごに ―100年に一度の大改造に向けて―
9月から、東京西部の池袋、新宿、渋谷の駅を中心とした周辺のまちづくりと現時点の再開発についてご報告しましたが、 3カ所とも終戦直後から闇市の成立と1950年代から60年代にかけての再開発を契機として、 現在の副都心と呼ばれる機能を備えるようになった地域です。
現在、これら3カ所の駅周辺で計画・事業化されている再開発事業の多くは、 戦後復興期から前回の東京オリンピックまでに「再開発」されたものの「再々開発」です。
特に、渋谷駅街区の大型再開発がスムーズに進んだ背景には、 渋谷駅周辺の土地の大半を「東急」が所有し、 再開発推進の中心的な役割を担っていることにあります。
渋谷のまちづくりの中心企業である「東急グループ」は、 2019年に社名を「東急電鉄」から「東急」に変更していますが、 これは沿線人口の増加を前提としたビジネスモデルから、 最大の拠点である「渋谷」の魅力、価値を向上させることで、 沿線全体の価値向上を図る戦略に切り替え、再開発推進の中心的役割を果たす決意表明ではないでしょうか?
「100年に一度」と言われる渋谷駅中心地区の再開発は、現在、2027年度の完成に向けて後半戦に入っています。
オフィス機能を充実させながら先行開業した渋谷の再開発ビルは、 コロナ禍によりオフィス需要は打撃を受けましたが、リモートワークの進展を織り込んで設計されたシェアオフィスや インキュベーションオフィスなど、「わざわざ来る、集まる価値のあるオフィススペース」が 積極的に設けられています。
「わざわざ訪れたくなるまち」、「来る価値のあるまち」として、 「働く」「暮らす」「学ぶ」「楽しむ」の質を総合的に高め続けることが、 今後益々重要となり求められるのだと思います。