未来への出発点―ポートランドを参考にした札幌市の成長戦略―
まちを変える「北海道新幹線」延伸
札幌の街づくりのヒント
~目標は「ポートランド」~
札幌市は、明治初期から北海道の行政の中心、戦後は道内の経済の中心として発展し、 約50年前の1972年冬季五輪の開催を機に、社会インフラ整備が進み、 更に大きく飛躍して政令都市になりました。 また、民営化されたJR北海道の施策で、2003年に札幌駅が大きく変わり、 商業の中心も、大通り周辺エリアから駅前周辺エリアに移っています。と前回報告しました。
そんな中、2030年には「北海道新幹線」が 札幌駅まで延伸され、札幌駅と東京駅が直接つながります。 これを機に、まちの機能を強化しようという機運が高まり、中心部では大規模な再開発計画が進行中です。
新幹線「札幌駅」は「大地の架け橋」を目指す
「新幹線札幌駅」は、「札幌と日本」そして、 「札幌と世界」を繋ぐ架け橋となるような「新たな駅」を創り上げることを目指しています。
「北海道新幹線」は、現在工事中ですが、 現在の札幌駅の1番線を廃止して新幹線高架橋を構築し、小樽方面から入線します。
「新幹線札幌駅舎」は、 現在の札幌駅より東側となる北6条西1丁目エリアの創成川の上空に新たな外観が形成されます。
この「新駅舎」は、 8月末に閉館予定の「エスタ」と 隣接の市営駐車場との跡地に建つ再開発ビルと一体化した建物となり、 新幹線、在来線、地下鉄、バスなど様々な交通機関のスムーズな乗換えが可能となります。
再開発ビルの概要は後述しますが、 開業時期は新幹線の2030年開業前の2029年の開業を目指しています。
駅周辺エリアの主な再開発と既存施設の改装計画案
7月3日に発表された全国路線価では、 「平均上昇率6.8%の北海道が全国トップ」となっています。 これは、再開発が進む「札幌圏」の 路線価が軒並み上昇となっていることに起因していますが、現在進行中の案件を紹介します。
■ 札幌駅直結 「北5西1・西2街区 第一種市街地再開発事業」 JR北海道グループが運営する商業施設 「エスタ」(8月末営業終了予定)及び 「札幌駅バスターミナル」(9月末営業終了予定)の 解体跡地と隣接の市所有の駐車場跡地を活用した2ha超の大規模開発です。 建物概要は、地上43階 地下4階で、高さ約245mで、 商業施設、ホテル(国際水準型及び宿泊主体型)、 高機能オフィスに加えて最上階には道内随一の地上約240mの高さに 展望施設を設けるなど魅力ある都市機能空間を作るほか、 都市間を繋ぐバスターミナルを設置して、 新たな人・情報の出会いや交流を促進する機会を提供します。 ■ 札幌駅南口 「北4・西3街区 第一種市街地再開発事業」 この場所は、2009年9月に閉店した西武百貨店(旧五番館)跡地を 「ヨドバシカメラ」が 2011年に取得し解体していましたが、2021年に他の地権者とともに設立した 「北4・西3街区市街地再開発組合」が新たに計画しています。 施設概要は、約11,000㎡の敷地に地上35階、地下6階に南北2棟構造の建物が建ち、 北(駅側)は高さ60m、南は高さ約200mで、 商業施設、ホテル、オフィス、駐車場のある複合ビルとなり、低層階商業ゾーンの核店舗として、 「ヨドバシカメラ」が開業します。 ■ 「さっぽろ東急百貨店の改装」 ~「融合型リテーラー」に向けて~ 東急百貨店は、百貨店事業で培ってきたノウハウを活かし、 百貨店とショッピングセンターの融合に加え、新規事業を創出して事業構成の多様化を図る、 独自の新たなビジネスモデルを目指しており、具体的には、 専門店事業やEC・通販事業、アウトセール事業(デジタルツールを活用した顧客対応)や 人材サービス事業などを推進しています。 「札幌店」は今年の10月5日に開店50周年を迎えますが、 |
大通りエリアの再開発計画
■「4丁目プラザ(通称:4プラ)」跡地の開発
若者文化の発信基地として、1971年(昭和46年)に開業した「4丁目プラザ」は、 昨年、50年の歴史に幕を閉じた商業ビルですが、2025年春の開業を目指して、 地下2階、地上13階建てのオフィス主体の複合ビルに生まれ変わることが先日発表されました。
大通りのスクランブル交差点に面した「4プラ」は、 さっぽろ地下街と直結していましたが、 地下1階から地上3階は、飲食・物販・サービスとし、 1階の駅前通りに面する一面は、 「カフェ併設の市電待合いスペース」とするほか、 3階外周部は半屋外テラスの公共空間として、誰もが気軽に過ごせる 「まちのリビング」として、 利用者が思い思いに過ごせる居場所を提供するとともに、 災害時には一時滞在施設として活用する方針も掲げています。
4階以上は、ワンフロア990㎡(約300坪)のオフィスとし、 最大でも7分割での賃貸とした大型オフィスを予定しています。
■「PIVOT(ピヴォ)」跡地の再開発
隣接の「ピヴォ」は、「4プラ」「札幌パルコ」とともに、 大通りゾーンのファッションビルとして親しまれてきましたが、 5月から順次閉館し、新規ビルは、複合ビルでの再開発を検討中で、 2024年着工、2026年の竣工を目指しています。
共通点が多い「ポートランド(米・オレゴン州)」と姉妹都市
~60年以上のお付き合い~
札幌市は、「ポートランド」と1959年(昭和34年)に姉妹都市を結んでおり、 両市の付き合いは、実に60年以上に及んでいます。
背景には、札幌が北緯43度03分、ポートランドが45度31分とほぼ同緯度にあり、 街がつくられた経緯も、「開拓者が街を拓き」「市街地は碁盤の目状に広がり」 「市の中心部を大きな川が流れる」という、地理的な構造や風土が似ているという共通点がありました。
(株)商い創造研究所の松本代表は、『人口65万人のポートランドには 「ナイキ」が本社を構え、地元発祥の 「コロンビアスポーツ」や「アディダス」の 米国本部があるのは、自然環境と生活文化を融合したスポーツやアウトドアライフの情報発信地となっているからです。 多様性に溢れるサスティナブルな社会が形成できるのは、 経済活動だけではなく、地域社会を営む政治姿勢やコミュニティ、 街づくりまで、持続可能な考えが貫かれています。
「全米で最も住んでみたい都市」や、「最も環境に優しい都市」「最も自転車で移動しやすい大都市」 「最も美味しいレストランが集まる都市」など、 ポートランドが生活文化都市として高評価を集めたのは、 ライフスタイルと街づくりでの「共存」の関係性が育まれていたからです。 具体的には、「中心市街地と自然や農地を守る郊外との境界線」 「古い建物と新しい街並みの調和」「ナイキのような大企業と個性的なショップの融合」などが挙げられます。
ただし、昨今は家賃や地価上昇により、低所得層が追い出される ジェントリフィケーションやホームレスや犯罪が急増するなど、 新たな都市課題を抱えています。』と述べています。
ポートランドの事例に学ぶ ~市内の交通インフラの見直し~
札幌には「市電」が走っており、市民の貴重な足となっていますが、 前述したように、ポートランドは「最も自転車で移動しやすい大都市」と言われていますが、 街の中での移動に住民は自動車は使わずに、徒歩か自転車、ライトレール(新型路面電車)で移動しており、 環境に配慮した「サスティナブルなコンパクトシティ」として有名です。
札幌の市内交通も、2015年に、現在走る市電の 「西2丁目駅」と 「すすきの駅」間(〇印)が 開通し、ループ(環状)化されたことで、 利便性が大きく飛躍しました。
市電の延伸要望が多い 「札幌駅」方面だけではなく、創成川東側の 「苗穂」や北のベットタウン 「桑園」方向などへの延伸要望が挙がっていますが、 次世代型路面電車(LRT)が発達しているポートランドが持つ知恵を学び、 市内交通インフラを充実することへの期待は大きいです。
さいごに ―まちづくりの成功に向けて大切なこと―
今回は、地方中核都市「札幌」の報告をしてきましたが、 札幌を含めて地方中核都市と言われる「仙台・広島・福岡」においても、 再開発を中心とした街づくりが進められています。
特に、福岡では2015年から始まった「天神ビックバン」計画により、 ビルが集中的に建て替えられています。
この背景には、日本国内の成長を支えた高度成長期(1955年から1973年)から約半世紀が経ち、 当時建設したビルの建て替え期を迎えていることがあり、 東京・大阪・名古屋などの大都市における再開発が始まっているのです。
札幌では、2030年の2度目の冬季五輪開催誘致を計画中ですが、 マイナス与件として、2020年の東京オリンピック誘致に向けての 汚職・談合事件の余波が影を落しており、 2030年大会を見送り、34年大会への開催候補の可能性も示唆されています。
再開発に向けての新たな施設概要計画をみると、 「商業施設、オフィスにホテル」という計画であるという事が、少し気になります。
コンパクトな街づくりの方向性は間違っていないと思いますが、 実需を無視した「オフィスやホテル」の建設は将来的には過剰感を生みかねず、 特にコロナ禍後においてのオフィス供給過剰を懸念する声も出ています。
予断は許しませんが、オリンピックなしで、秋元市長が掲げる「共生社会」の 街づくりを目指すことが求められるかも知れません。
「ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる」(学芸出版社)の著者
山崎満広氏は、『ポートランドでは、「住民と行政は平等の立場」にあり、 都市開発においての重要な決定をしなければならない時は、 「住民」、「行政」に加えて、「事業者」、そして大学や病院などの 「公共機関」の四者がそれぞれの利害を調整すべく、話し合いをする。
「環境に配慮した住みやすい街にしたい」という思いは一緒なので、 「まちづくりのビジョンを皆で共有すること」が、この魅力的な街をつくる最大の秘訣だ』と述べています。
これからの人口減社会を迎えるにあたり、 多様化し続けるサスティナブルな地域社会の街づくりにおいては、 「自治体」、「公共機関」、「企業」、そして「住民」が一緒になって話し合い、 様々局面での「共有」の関係性をつくって行くことが、求められるのではないでしょうか?