計画の推進に必要な4つの視点
未来に向け、新たなまちづくりに挑む「新宿」
~駅を中心にした次世代型ターミナルへ~
現在の新宿駅は、明治以来の鉄道網と商業の発達とともに、 「7路線8駅が乗り入れ、乗降客数350万人/日を誇る世界一の巨大ターミナル」となりました。
前回は、宿場町から百貨店を中心とする一大商業地区に発展した東口側、 1960年代に入り、「新宿副都心計画」により東京五輪にむけて、立体的駅前広場が完成し、 さらに浄水場跡地が超高層ビル街区に生まれ変わり、ほぼ現在の姿となった西口側、 それぞれが今の「街の顔」を持つに至った経緯について報告しました。
そこで今回は、それから約半世紀が経った今、 2020年代後半から2040年代に向けてスタートしている新たな開発計画について、その内容を報告します。
新宿駅及び駅周辺の都市基盤の現況と課題
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「新宿駅周辺地域の新たなまちづくり」に向けて
東京都と新宿区が方向性を策定
東京都は、2040年代の東京が目指すべき都市像とその実現のためには、
「地域の個性やポテンシャルを最大限に発揮し、新たな価値を創造する拠点として再整備することが重要」と位置付け、 新宿区とともに「新宿の新たなまちづくり~2040年代の新宿の拠点づくり~」(2017年)を 策定し、翌2018年には、新宿駅直近地区のまちづくりについて、鉄道事業者とも連携して再編を行う 「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」を策定し、 具体的な整備内容を示しました。
「新宿グランドターミナル」の再整備方針は、 「交流・連携・挑戦」と「人中心」 という考え方で、駅、駅前広場、駅ビル等が、有機的に一体化した次世代のターミナルをつくり、 誰にとっても優しい空間がまちとつながり、様々な目的を持って訪れる人々の多様な活動にあふれ、 交流・連携・挑戦が生まれる場所とすることを目指しています。 「交流」軸の構築は、グランドターミナルとまちを、 JRの線路上空を跨いだ「東西骨格軸」でつなぐ 「連携」空間の創出は、 グランドターミナルの顔となる「プラザ・テラス」を整備する 持続的な発展への「挑戦」は、 新宿のレガシー(西口立体広場)を継承しながら、新たな景観を生み出す という内容となっており、将来像としては、国内外の人・モノ・情報が集まり、交わり、刺激し合い、 更なる魅力や新たな価値を持続的に創出し続ける「国際交流都市・新宿」として、 |
鉄道事業者の開発計画(2案件)が進行
前述の再編を行う新宿駅直近地区のまちづくり「新宿の拠点再整備方針~新宿グランドターミナルの一体的な再編~」に則り、
2つの開発計画が発表されています。 (出典:小田急電鉄と京王電鉄ニュースリリース)
(1)小田急電鉄と営団地下鉄(メトロ)が、
「新宿駅西口地区開発計画」を2020年に発表していましたが、
本年2月には共同事業者として「東急不動産」が新たに参画しています。
(2)京王電鉄は、JR東日本とともに、
本年4月に「新宿駅西南口地区開発」を公表しています。
この開発は、甲州街道を挟み現在の「京王百貨店」と「ルミネ新宿1」が
並んで建つ「北街区」と甲州街道を渡った「南街区」があります。
■「新宿駅西口地区開発計画」
1967年に全面開業した「小田急新宿店本館」は、 小田急線と丸ノ内線の駅上、2棟の駅ビルの外観が同一パネルに統一された商業建造物であり、 新宿駅西口の象徴的な建物として副都心開発を見守りながら、50年以上に亘り親しまれてきましたが、 先月末に惜しまれながら営業を終了し、今後の再開発に向けて解体されます。 工事期間中、新宿店は「新宿西口ハルク」で、「食品」「化粧品」「インターナショナルブランド」中心の構成で営業します。
新たな開発計画地は、小田急新宿店本館や新宿ミロードと新宿地下鉄ビルディングが建つ帯状の 土地(前掲・当該エリア図の斜線部)ですが、新宿グランドターミナルの一体的再編を象徴する大規模開発として、 高層部はハイグレードなオフィス機能、中低層部は新たな顧客体験を提供する商業施設を備えた地上48階、 地下5階、高さ260mの超高層ビルで、2022年度中に着工し、2029年度の竣工が予定されています。
■「新宿駅西南口地区開発計画」
京王電鉄の電車は、新宿駅の地下2階部分のホーム発着となっていますが、 駅上の「京王百貨店新宿店」は、 東京五輪開催の1964年(昭和39年)京王線軌道の地下化などに伴う駅ビル再開発で誕生しました。
金属的な輝きを放つ外観も、北隣の小田急百貨店と合わせて巨大な城壁のような印象です。
京王百貨店は、JR東日本グループが運営する「ルミネ新宿店」と隣接しており、 両社は、今年4月に「新宿駅西南口地区開発計画」を発表しましたが、 前述の西口地区開発計画と連携し、駅とまち・まちとまちを重層的に移動できる歩行者ネットワークの構築を担い、 甲州街道を挟んでの「南・北2街区」を開発します。竣工は、南街区が先行し、北街区は2040年代を目指しています。
①南街区
新宿南口交通ターミナル(バスタ新宿)の西側、JR東日本本社ビルの北側に位置するゾーン
「バスタ新宿」がある甲州街道の南側は、住居表示は「渋谷区」ですが、
このエリアにも再開発の波が押し寄せています。
地上37階、地下6階、高さ225mのオフィス、ホテル、商業施設等が入居し、
34階の展望広場には「新宿テラス」が設けられる予定です。
スケジュールは、2023年度着工で、2028年度竣工を目指しています。
②北街区
現在「京王百貨店とルミネ新宿1」が並んで建つゾーン
地上19階、地下3階、高さ110mの商業施設、ホテル等が入居予定ですが、
甲州街道上には新たに「国道デッキ」を設けて北街区と南街区の行き来を
スムーズにするとともに、「ターミナルシャフト」や「スカイコリドー」と呼ぶ
縦横動線の確保をしながら一体的に動けるようにして、2040年代の竣工を
目指しています。
わかったこと。見えてきたこと。
まちの発展において鉄道開業が果たした役割は大きく、首都東京はもとより、 地方においても同様に、駅(ターミナル)中心に形成されています。 新宿の歴史をみても、時間の経過とともに、新たな機能変化が求められましたが、 その決断と実行においては、戦争、自然災害、疫病などが大きく関わり、 結果として後押しをしていることが分かりました。 そんな中、2020年春から全世界に影響を及ぼしている「コロナ禍」を経験した今、 新宿再開発計画も期せずして、ビヨンドコロナのまちづくりを求められることになりました。 先送りしている課題等を見直すチャンスとして受け止め、 前に進むことが大きなターニングポイントになるのではないでしょうか? 鉄道事業者にとっての新宿は、重要拠点の一つであり、その魅力向上は新宿だけではなく 沿線エリアにも大きな価値をもたらします。 新宿グランドターミナル構想は、「交流・連携・挑戦」「人中心」という考え方に基づき、 新宿が持っている財産をもっと生かしながら、さらに活力を生み出そうとする構想です。 駅、駅前広場、駅ビル等が、有機的に一体化した次世代のターミナルは、 国内外の人・モノ・情報が集まり、交わり、刺激し合いの場となります。 そこから更なる魅力や新たな価値を持続的に創出し続ける「国際交流都市・新宿」が生まれるのではないでしょうか? |
さいごに ―未来を考えるにあたって―
仕事を進めるうえにおいては、「3つの視点」で 考えることが重要だと言われていますが、
「鳥の目」 全体を俯瞰するマクロの視点
「魚の目」 流れを掴むトレンドの視点
「虫の目」 細部にまで拘るミクロの視点
弊社代表は、それに加えて、ビヨンドコロナ時代の意思決定には 「蝙蝠(こうもり)の目」で考えてみる必要があると言っています。
ご存知のように、蝙蝠はぶら下がり、逆さになって下界を見ているように、
計画を立てる時には、もう一度、逆から考えてみるという意味です。
いくら優れた政策や戦略でも、それを具体的に実現する計画(戦術)がコロナ禍前と同じでは、 莫大な投資をしても絵に描いた餅になってしまいます。
未来に向かっての新たな計画を推進するには、 「蝙蝠の目」で反対から考えてみてはいかがでしょうか?
具体的には、
・固定概念を捨てた計画になっていますか? 特に柵(しがらみ)
・業界の常識をもう一度疑ってみませんか? 特に悪しき慣習や前例
・自社運営に拘り過ぎていませんか? 特にチャチなプライド
などの視点がありますが、
計画をこのような視点で再点検することが重要ではないでしょうか?