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気持ちに寄り添うクレーム対応


気持ちに寄り添うクレーム対応

今でも決して得意なわけではありませんが、クレーム対応が苦手でした。なんとかしなくては、 という思いばかりが先に立ち、かえってお客様のご不審を招いてしまうという苦い経験も多くしてきました。

コロナによる社会変容でお客様の購買傾向が変わり、それに合わせて売場でも多種多様なサービスが新しく生まれました。 オンラインとオフラインを行き来してのお客様とのやり取りなど、その最たるものと言えるでしょう。 出来て当たり前のご対応方法が以前よりも増えたのです。
必然的に店舗やスタッフに対するお客様の期待値は上がります。
「こういうことは出来るだろうか?」
「こういったことがあったのだが、どうしたらよいだろうか?」
お客様から店舗に寄せられるご相談は、日に日に増加しているように感じます。

しかし、ご相談はファンになって頂ける機会でもあります。
お客様のお気持ちを真摯に受け止めて対応することで、時には販売員冥利に尽きるお言葉を頂戴することもあります。
それは店舗の、ひいてはブランドのバリューを上げることに繋がります。今回は私が実際に経験したクレーム対応についてお話致します。

「上司のある一言」


クレーム対応への苦手意識が払しょく出来たのは、半年ほど一緒に働いたある上司の一言でした。

ある時、お客様が破損した時計をお持ち込みになりました。購入したばかりだが、破損してしまった、 保証期間内なので交換をしてほしい、というご要望でした。販売規約と補償内容に照らし合わせると、 交換は出来かね、修理対応となる案件でしたが、お客様にはご納得頂けませんでした。

上司に「こういったクレームが発生しました」と報告すると、上司は私にこう言いました。 「武島さん、それはクレームじゃなくてご相談ですよ。つまり接客です。普段通りお客様と向き合いましょう」。

金言でした。日常の接客において、私たち販売員はお客様の様子を観察し、お話を伺い、 ご満足頂けるよう出来得る最大限のご提案をします。お客様のことを思い、時間をかけて向き合うわけです。
「それと同じだよ、だってどうにかならないかというご相談なのだから。」そう上司は言うのです。

肩の力が抜け、心がスッと軽くなりました。こちらのお客様にはお話を更に詳しくお伺いし、 いったんご対応についてお預かりをしました。
その上でまず、商品特性や保証内容の詳細を調べ、どうして破損し、どうすれば防げたか、 どのようなケアが必要かをご説明出来るように、改めて勉強しました。また、スーパーバイザーや修理担当者と相談を重ね、 ご対応方法を検討しました。そして、改めてお客様と時間をかけてお話をさせて頂きました。
その結果、「そうかあ、そういう理由があるんだね。色々教えてくれてありがとう」と、 修理対応でご納得頂くことが出来たのです。

私にとってこれは転機となる出来事でした。お客様に必要だったのは、その場ですぐに回答を出すことではなく、 時間をかけなければ分からない「理由」と、それを踏まえた「説明」だったのです。
そして、私に足りなかったのは、お客様がお困りになっているその「気持ち」に寄り添うことだったのです。
このことがあって以来、私は「クレーム」という言葉をあまり使わなくなりました。ほとんどの場合、 それは「ご相談」だからです。


「スタッフが頂いたお言葉」

店長を務めるようになってから、上司から頂いた金言を、部下にも伝えるようにしてきました。 ある時、こんなことがありました。

遠方にお住いの女性のお客様から、代引きで商品の購入をしたいというお電話を頂きました。 中堅女性スタッフのDが対応しました。
お客様はこう仰います。
「以前にオンラインで靴を購入したことがあるのだが、革のシワが気になってしまった。 店舗で確認をしたいのだが、どこも遠くて見に行くことが難しい。スタッフの方に状態を見てもらってから買いたいので、 代引きで対応してもらいたい」。

代引き対応は可能ですので、快く承りました。ご要望の商品はレザーのサンダルでした。 こちらの商品は素材の特性上、革のシボや色のムラが必ずあります。Dがご説明したところ、 お客様はオンラインでの購入体験がずっと引っかかっていて、ご不安なご様子。

そこで彼女は、電話で接客を始めました。オンライン購入された時の状況、サイズや普段お召しのお洋服のこと、 お住いの場所など、詳しくお伺いしました。また、ご要望のお品物のブランド背景や商品説明、素材特性やケア方法をお伝えし、 ご提案しました。電話は長くなりました。しかし、次第に笑い声が多くなり、楽しげな会話の雰囲気になっていったのです。 それで私はお客様がDに心を開いてくださっていることが分かりました。頂いたお電話は、同じ商品を複数点お取り寄せし、 状態の良い物をこちらで選び、改めて電話を差し上げるとお約束して終了しました。

商品が到着し、Dも含めて複数人で慎重に検品しました。彼女は「これなら、お客様はご満足頂けると思います」と言いました。 彼女はその時、お客様が届いた商品をご覧になる時の表情が、実際にお会いしたことはなくとも、想像出来ていたのだと思います。

Dからお客様にお電話を差し上げました。状態、検品方法、代引きはシステム上ご返品が致しかねる旨、 ご不安な場合は近隣店舗へのご配送も承る旨お伝えし、お客様のご判断を仰ぎました。するとお客様は、こう言われたそうです。
「ここまでして頂いたことは初めてで、大変うれしい。Dさんが選んでくれたものであれば、それで構わない。 それを履きます。ありがとう。この夏、たくさん履こうと思います」

嬉しいお言葉でした。電話を切った後、「ああ、良かった!」と彼女は嬉しそうに笑いました。 その笑顔を今もよく覚えています。私は彼女にこう声を掛けました。 「Dがお客様の不安な気持ちに寄り添っていたから頂けたお言葉だね。素晴らしかったよ」。

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経験を繋げていく

私がかつて上司の下で得た経験を、今度はDがしてくれました。
ご相談に対して、店舗やブランドのバリューを向上させるような対応が出来るようになるまでには、たくさんの経験が必要です。
それは簡単に得られるものではありません。
だからこそ、こうした経験を繋げていくことは、店長の役割と言えるでしょう。
時代が変わり売場が更に変化していく中で、Dもいずれ、繋げていく立場になっていくのですから。

武島 幸宏
武島 幸宏
ワンスアラウンド株式会社 ビームス みなとみらい 店長

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