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人口増と税収増に結びついた、まちづくりのターニングポイントとは?



「まちづくり」における豊島区の挑戦


前回は、SDGsの開発目標11:持続可能な都市(住み続けられる街づくりを)の視点から、①ライフサイクルに応じた循環型まちづくりとしての山万株式会社(千葉県・ユーカリが丘)、 ②共働き子育て世代を支援して「日本一住みやすい街」を目指し、 定住人口と交流人口の増加を目指した流山市(千葉県)の事例をご紹介し、「活気があり、未来があり、安心感があるまちづくり」にチャレンジしていることを報告しました。

今回は、行政単位としては大きいですが、2014年に都内23区で唯一「消滅可能性都市(※)」の 指摘を受けた豊島区のチャレンジについて、報告したいと思います。

※「消滅可能性都市」とは、民間有識者組織の「日本創成会議」が発表した全国自治体の将来推計人口により、 2010年から30年後の2040年において、20歳~39歳の若年女性が半減し 人口を維持することが出来ない自治体を指しています。

<公民連携で稼げる自治体を目指す>

豊島区は、1990年代後半は財政破綻の状況でしたが、高野之夫氏が1999年に区長に就任し、 職員の削減、給与減額、施設の統廃合などの痛みを伴う行政改革に取り組みました。
ただ、「あれもダメ、これもダメ」では夢がなくなるので、区民に心の豊かさを持ってもらうために、 区政の中心に「文化」を置き、「文化によるまちづくり」を訴え続け、 区役所庁舎の老朽化に伴う建て直しと跡地利用計画においては、公民連携で取り組みながら(※)、「稼げる自治体」の実現を目指しました。

※具体的には、
■豊島区役所・新庁舎:
民間マンションとの一体型庁舎として2015年開業
■旧庁舎跡の活用:
8つの劇場を有する「Hareza池袋」を文化の拠点として2020年開業

限られた財政状況の中、「公と民の知恵と力」を結集して両案件を企画立案。 新庁舎は、区有資産(小学校跡地)を活用して財政負担ゼロで建設し、
旧庁舎の跡地は、定期借地により民間を活用し、区有地定期借地料を新庁舎整備費に充当して、 区の財政破綻のピンチを救っています。


新庁舎    旧庁舎跡
新庁舎(マンションと一体化)       旧庁舎跡「Hareza池袋」   


併せて豊島区としての明確な都市像を出すために、世界を視野に置いた 「国際アート・カルチャー都市構想」を発表して、
「消滅可能性都市」から「持続発展都市」への転換を目指しました。


<持続発展する都市への取り組みと成果>
■「子どもと女性にやさしいまちづくり」

女性に視点を合わせて、先ずは保育所を積極的に開設しました。
私立認可保育所は、9園(2013年)から69園(2021年)へと大きく増加し、
2017年からは待機児童ゼロを達成しています。

ただ、豊島区は空いた土地が少ないため、保育所もマンションの一角が多く、 子どもたちが遊べる園庭が無いので、後述する公園を園外活動の場として活用し、 そこへの送迎には区営の「IKEBUS」を運行して、思いっきり遊ばせています。
池袋駅周辺の東口・西口ゾーンでは、この赤いバスに出会います。
IKEBUS1  IKEBUS2
池袋駅を挟んで、公園と公園を巡回する「IKEBUS」


■人と人が触れ合う場所=「公園」を核にしたまちづくり
 公園と連携させながら、「新たな交流、表現、にぎわい」を創出

コロナ禍前の2019年だったと思いますが、チエノワの松尾代表に、 これからのまちの開発に重要なのは商業だけではなく、 「公園」の開発が注目だと教えて貰って訪ねたのが、 リニューアルした「南池袋公園」でした。


南池袋公園  南池袋公園2

約2400坪の敷地に大きな樹木や青々とした芝生があり、晴れた日の青い空と その空間の気持ち良さに圧倒されましたが、そこで近くの保育所の子どもたちが 先生と一緒に元気に飛び回っているのが印象的でした。
先日、改めてランチ時に行ってみましたが、周辺のカフェレストランだけではなく、 公園内の至るところでランチタイムを過ごす人々が溢れていました。
週末には個性的なイベントも開催され、「池袋のオアシス」というキャッチコピーがぴったりです。

その後、2019年には、旧区庁舎跡のHAREZA池袋と連動した 「中池袋公園」と、 本格的なクラシック演奏も可能な野外劇場のある 「池袋西口公園(愛称:グローバルリング)」が開設されます。

さらに2020年、旧造幣局があった場所に、 「公園から街が変わる」「公園が街を守る」との考えに基づき、 災害時には防災拠点としての機能をもった、区内最大面積の 「としまみどりの防災公園(愛称:IKE・SUNPARK)」 を開設しました。
園内には、障害のある子も、ない子も一緒に遊べるインクルーシブの概念を取り入れた 小さな子ども専用の公園「としまキッズパーク」が併設されています。
乗り物や環境は前述した「IKEBUS」と同じ「IKEBUKURO RED」の 赤色に統一されていますが、デザイン監修は水戸岡氏が担当しています。

  
■将来都市像「国際アート・カルチャー都市」の実現に向けて

前述したHAREZA池袋と連動した「中池袋公園」、 本格的なクラッシック音楽が楽しめる劇場公園となっている「池袋西口公園」は、 文化芸術、地域の賑わい、情報発信の拠点となっています。

さらに豊島区には、世界共通の文化といえるアニメとマンガがあり、2020年には 「トキワ荘マンガミュージアム(伝説のアパート)」が開業しています。
また、HAREZA池袋の隣にある「アニメイト」は、 コロナ禍以前からアニメの聖地として世界各地と交流しています。

また、1978年に開業したサンシャインシティは、半官半民の存在としての複合施設ですが、 豊島区の文化的側面の象徴でもあり、商業、観光からビジネスまで幅広く集客しています。
現在は、館内イベントだけにとどまらず、隣接の「としまみどりの防災公園」と連動し、 池袋のまちづくりや、街中でのカルチャーイベントにも参画しています。

豊島区のチャレンジから、 見えてきたこと。わかったこと。


豊島区は、池袋という巨大ターミナルを抱え、かつては日本一の人口密度でしたが、 人口は減少の一途で、1997年には約23.2万人と底を打っていました。
そして、75歳以上の単身高齢者世帯割合は日本一、一人当たりの公園面積は23区で最も小さく、 空き家率も多いという状況でした。

しかし、前述のような取り組みにより、
消滅可能性都市の宣告を受けた 2014年1月1日→2021年同日の比較では、
豊島区の人口は、271,643人→287,300人に増加。
そのうち、0歳から14歳の年少人口は、23,382人→26,247人となり、
その割合も8.6%→9.1%へと増加しています。
そして、2014年から5年間で納税義務者数は2万人超の増加があり、区民税収は約43億円増えたのです。
(参考:豊島区住民基本台帳&区HP)

まちが変わったことが、人口増と税収増に結びついたのです。

そのまちづくりの着目点(=ターニングポイント)は、次の3点に集約されます。

(1)新庁舎の建て替えと旧庁舎の跡地活用

豊島区は、旧庁舎を民間不動産会社に定期借地で貸し出し、その借地権利料を一括で受け取り、 それにより得た資金を新庁舎の取得費用に充当し、区民の負担を無くしています。

→これは、豊島区だから出来たのではなく、行政単位の大小に関わらず、 どの自治体にも当てはまるのではないでしょうか?

(2)まちを元気づけるために公園を開設

豊島区は、「南池袋公園」を始め池袋駅の東西に4つの公園を開設し、公園に次のような機能と役割を持たせました。

・安心、安全の場所・・・災害時の防災拠点としての機能
・集う場所・・・ファーマーズマーケット、音楽や文化イベント開催
・保育園(所)の園庭・・・マンション一角の保育園(所)のバックアップ機能

直近では、豊島区に限らず公園が注目されていますが、これは、2015年に改正された 「都市公園法」が大きく関わっています。

→公園と連動する商業施設としては、
三井不動産が「東京渋谷の宮下公園」「名古屋市の久屋大通公園」跡地に 「RAYARD(レイアード)」ブランドで、 そして直近では、福岡市青果市場跡地を開発した 「ららぽーと福岡」など積極的に取組んでいます。その他でも関東では、 「立川グリーンスプリングス」、「南町田グランベリ―パーク」などに繋がっています。

(3)豊島区が持っている文化資産に着目

豊島区は、明確な将来都市像「国際アート・カルチャー都市」を描いていますが、 その一例として、古くから根付いているアニメ・マンガ文化の魅力に着目し、基軸としました。

→各自治体それぞれが持っている文化資産を掘り起こし、まちの魅力と誇り を再発見することが重要ではないでしょうか?


最後に、
今回は、「まちは生き物で、まちづくりにゴールはなく」
「公と民の知恵と力」が、「まちを変え、勇気と元気を与えている」
ことを改めて確認しました。

豊島区は強いリーダーの元、財政回復に目途つけていた時に、「消滅可能性都市」の指摘を受けましたが、 「明確な都市像」を宣言し、「行政と地元企業そして区民」が連携しながら歩みを進めて克服しました。

前述のサンシャインシティが、「地域と社会に何か面白いことを提供する」という SCのミッションの実現に向けて、社員が豊島区に住み、区民目線で活動する 「トシマージュ」というユニークな社内制度を2020年秋からスタートさせています。 現在15名がエントリーしていますが、思い思いにボランティア活動をしながら、 まちのことや、まちで暮らす人を知り、関わりを持つ活動をしています。


これまで見えなかった地域の現状を知ることが出来、住民ならではのネットワークが築けて、 行政とも連携しながら地域に貢献する力となっているそうです。

「SCの社員がそこに住み、住民目線で客声をキャッチアップ」をしながら、 行政との連携をより強化していくことは、未来のまちづくりに結びついてゆくのではないでしょうか?

馬場 英喜
馬場 英喜
ワンスアラウンド株式会社 顧問

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