ショッピングセンター(SC)の未来を考える ―第6回―
ワンスアラウンドの『現場マガジン』 2021年9月15日号
皆様いつもお読みいただきましてありがとうございます。
ワンスアラウンドが毎週お届けしている『現場マガジン』は、文字通り我々が運営する《現場》発の ホットな情報をお届けするメールマガジンです。
今週は、『マーケットレポート』の第15弾をお届けします。
コロナ禍でのマーケットの変化と、商業施設を中心とする現場の変化をタイムリーに捉えながら、 自らも現場を持つ弊社ならではの視点で、これからの時代へのヒントをお届けしたいと思います。
ショッピングセンター(SC)の未来を考える ―第6回―
こんにちは!ワンスアラウンド顧問の馬場です。
前回は、リアル店舗の運営の在り方(FCと販売代行)を取り上げ、「リアル店舗」と「EC」の連携による オムニチャネル化の進行は避けられないことを再確認しました。
そして、テナントの成長戦略や生き残り戦略を受け入れる体制をいかにスムーズに作るかを SCのミッションを中心に考えることがSCの使命だと述べました。
創業から100年を超える百貨店の検証
SCとともに小売業界を牽引してきた「百貨店」は、バブル崩壊後の30年間、売上が減少し続けており、 百貨店業態のポジションも低下していますが、一方では100年以上継続しているお店が数多くあります。
そこには継続し続けている理由があり、今後のSCの参考になるのではないかと思い、 今回は百貨店の変化と状況を調査しながら、少し掘り下げてみたいと思います。
(1)百貨店創業の歴史
百貨店創業の歴史をたどると、大きく以下の2つのグループに分類できます。 江戸時代の城下町の中心部に位置していた「呉服屋」からスタートした老舗と呼ばれるグループ 明治時代に入って人の移動が鉄道中心となり、大正時代に入ってそのターミナルに作られて、 鉄道事業とともに発展してきた「鉄道系百貨店」グループ |
(2)百貨店とSCの売上高の推移
百貨店協会発表の売上高は、バブル崩壊の1991年の9兆7,131億円をピークに 30年間減少し続けています。 20年前2001年8兆5,724億円 コロナ禍前2019年5兆7,547億円 と毎年下がり続け、 コロナ禍後2020年4兆2,204億円 と一気に下がりました。
20年前2001年25兆6,275億円 コロナ禍前2019年31兆9,694億円 と初めて前年を下回り、 コロナ禍後2020年24兆9,016億円 と一気に下がりました。
|
(3)売上高減少の原因と100年以上続いている強み
百貨店売上高は、30年間下がり続け、ピーク時からは約半分の売上規模となっています。 その理由はどんなところにあったのでしょうか?
社会的、環境的変化の視点でみると、
モータリゼーションによる郊外化の流れ
日米貿易摩擦に端を発した流通業界の規制緩和の影響
「消化仕入」と言われる日本独特な商慣習の是非
成長が鈍化する中での百貨店業界の倒産、資産売却や譲渡
などが考えられます。
一方、老舗と呼ばれる百貨店は、創業時は呉服屋でしたが、その後、様々な商品を扱いながら、 リスクを負って「目利きし、仕入れて売る」という商売形態を守り続け、 戦後は小売業の中核として消費拡大を支えてきました。
しかし、高度成長期に入ってからは、アパレルを中心としたゾーニング編成になり、 前述したような「消化仕入」という日本独特のシステムによって、 いつの日かリスクを負わない体質になったように思います。
そのリスクを負わない体質の影響は、大都市圏の優良立地にある「本店」は好調でも、 郊外や地方の「支店」は大苦戦という状況に如実に現れます。
併せて、海外からのカテゴリーキラーやファストファッションの日本進出、 国内ブランドのユニクロ、無印良品、赤ちゃん本舗、ニトリなどの大型化、 そして何よりも、SCや駅ビルの進化と急拡大に伴い、百貨店業態は急激に失速しました。
「殿様商売」と呼ばれる高コスト体質となり、得意ジャンルであった家具、 家電などのカテゴリーが売場から消え、加えてアパレル分野でもSCにお客様を奪われてきました。
しかし、継続し続けてきた百貨店の背景には、何か重要な強みがあったのではないかと思います。 それは、一言でいうならば、「百貨店は変化に対応できる小売業」であったこと、 そしてそれを支える「お客様の信頼」と「一等地という立地(不動産価値の高さ)」があったと思います。
「お客様の信頼」特に老舗の百貨店の方々から、「お帳場」というサービスがあったことを耳にしました。 これは富裕層や限定されたお客様に対するサービスで、現在の「友の会」や 「外商」に引き継がれています。 アナログな古い商売に見えますが、現在のBtoCではなく、特定顧客からのいわばCtoBとして、 オンラインで繋がるサービスを掘り下げていけば、更に特別な関係を築くことが出来るのではないでしょうか?
|
見えてきたこと、学んだこと
百貨店業界においても、バブル崩壊後の2006年以降、業界再編が進みました。 ・大丸、松坂屋 → Jフロントリテイリング ・三越、伊勢丹 → 三越・伊勢丹HD ・阪急、阪神 → エイチ・ツー・オーリテイリング |
業種としては、百貨店は「小売業」、SCは「不動産業」に分類されますが、 両者は、利益の源泉=事業構造が違っています。
つまり、百貨店は「商品売上」、SCは「テナントからの賃料収入」が利益の源泉です。
事業収入が安定するため、現在は、SC化の方向に向かう百貨店も多いのですが、 統合や合併による事業再編の事例としては、1969年創業の玉川高島屋SCと池袋パルコは、 半世紀にわたって、百貨店とSCが連携して代表的事例だと思います。
高島屋 子会社「東神開発」を経営の軸として大きく転換を図る玉川高島屋SCなどの商業施設の開発運営の子会社「東神開発」を生き残り戦略の核に据えて、 今春からは、高島屋グループの中心を「高島屋」から「東神開発」に移した組織体制へと大きく変更されました。 そこでは、百貨店の高島屋は東神開発が手掛ける施設の「1テナント」という位置付け となります。つまり、施設によって百貨店の必要性が高ければ高島屋の比重があがり、 必要がなければ小さくなるのです。
|
このように、百貨店は自社所有を含めた不動産を経営資源として、 売却や新たな事業展開に振り向けて、自前で、もしくは外部とコラボレーションをしながら、 事業を活性化させることが出来ます。
奥田特別顧問が言われている「テナント業」として、百貨店の本質を変えないで事業転換する視点も重要かと思います。
<今回のまとめ>
社会構造と生活の変化の中で百貨店、SCに求められるもの
一時代を築いてきた百貨店は様変わりしましたが、SCも2018年をピークに減速し始めたところにコロナ禍が襲い、 これからはより厳しさが予測されます。
百貨店の二の舞にならないように、未来に向けての準備が必要です。
今後のSCモデルの方向性は「多様化」だと思います。
これからは
「DEVのタイプ別の分化と立地別の分化」が進んでいくのではないでしょうか?
現在の既存DEV(電鉄系、不動産系、流通系等)は、MD編集で差別化を目指していますが、 同質化が否めません。
ただ、ここに来て施設規模は大きくはありませんが、これまでテナントとして出店していた企業が 自らの経営理念を体現した施設(店)が現れています。
(例:蔦屋書店T-SITE、無印良品、スノーピーク等)
これらは今後の新しい切り口の芽として参考になるのではないでしょうか?
一方、立地条件についても、都心型、郊外型、地方型という括りがありましたが、 コロナ禍によるテレワークの普及に伴い、都心と郊外の中間で、 より住に近づいた立地(例:立川、南町田等)がクローズアップされています。
施設もアパレル中心の「モノ」から「コト」「トキ」を創出する構造への変革が求められていますが、 規模と立地に応じて、商業施設から生活施設へ、さらに社会施設へとシフトしていくのではないでしょうか?
そして、そのためには地域再生の一環として、官民連携が必要となります。
経営者が良く引用するダーウィンの言葉に
この世に生き残る者は
最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化に対応出来る者である
という言葉があります。
変化への対応が求められる小売業においては、大きな社会を捉える「鳥の目」、それに加えて変化を見ながら、 流れを読み取る「魚の目」、そして日々のビジネスを円滑に進める「虫の目」が重要となります。
この3つの視点を忘れずに、百貨店とテナントの集合体であるSCは、
今後の在り方を時代に問いかけながら前に進みましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
ワンスアラウンド株式会社
顧問 馬場 英喜